2014年4月6日。午後12時30分。コーチン。
私にしては大奮発なゴージャスな空港ホテル。
ネットで見つけたこのホテルを選んだのは、偶然、マー君とママの京子さんがフライト前の短時間ステイをするって事と、ムナールに行っている間に荷物を安全に預かってくれそうだったから。
私にとってはそれくらい高価なホテルってことだ。でも、かつて住んだどのアパートよりも広いスイートだし、キッチンも冷蔵庫もあるし快適。バスタブもあって、栓がなかったけど、化粧品の瓶を排水溝に突き刺したら、かろうじてお湯にも浸かることが出来た。おかげで、あの悪夢の荷造り強行軍の疲れも緩んできた。
ともかく、30Lのバックパックに必要なものだけを詰めて、ここからムナールへと出発だ。久しぶりのインド一人旅。
ホテルの車でオートスタンドに運んで貰う。Aluvaからバスに乗ろうと思っていたが、オートワーラーのおじさんがPerumvavoorの方が近いというのでそっちへ。ちなみにオートというのはオートリキシャーのこと。人力車はほぼ絶滅していて、リキシャーワーラーといったら、それはサイクルリキシャー夫のこと。サイクルリキシャーの免許の新規発行はもう無いので、いずれ絶滅するでしょう。現在、限られた地域のみで営業が許可されている。
半年のデューティーから解放された脱力感と、オートでインドの湿った風を切るこの感じ。ああ、久しぶりだよ。幸せ。
途中、見覚えのある町を通り過ぎる。シャンカラアーチャーリヤの生誕地であるKaladiを通過。2年前にアンボリから引っ越してくる途中に寄ったよね。スワミジ達、ボーイズ、それからゴパールジとのタフながら楽しい道中が思い出され微笑ましい。プラヴィーンが木から逆さに落ちて首を痛めた後だよね、くっくっ。
20分の後、250ルピーでPerumvavoorのバスターミナルに到着するも、外国人は当然ながら一人も居ない。バスの行き先表示、英語どころかヒンディーも無く、まったく読めない!
通りまで出て行って交通標識を撮影。ムナールというマラヤラム語を暗記して目的のバス探し。結局なにやら分からぬままに、近くにいたオジさんの薦めてくれた一台に飛び乗った。
さて、空いている席に座ってみたが、どうも居住まいが悪い。これはつまり、男子と女子の座る位置が分れているということだと思う。それで間違いない筈。加えて、インドでは女は一人で旅などしない。奇異な目を向けられるのもまたしんどい。
私は、(スワミジの教育の賜物か)こういった空気を読むのだけは得意で、独自のルールのあるインドでは外さない。場違いな服装や行為をしないから地元人に好かれるのだが、空気を読んだところで、旅は始まってしまっているし、車内は混んでいて動けない。万事休すと思ったら、後々車掌さんが来て、前方の女子ゾーンの空席に誘導してくれた。
しかし、このバスで合っているのか、どこに行くのか、何もかもが全くもって不明だ。そのうえ過酷な仕事からの開放感のためか、頭の中、放心状態。「どこに着いたって怖くない」へんな安心感もあって、ただそこに居ることだけを味わっている。
バナナの葉っぱを通り過ぎてきた、森の、湿気を含んだ風。
目を閉じる。
そう、これがケーララだった。
結局、Kottumangalamで長らくの時間調整をしたあと、Adimali(多分)でバスを乗り換えた。開け放した窓から入る風の温度が下がるにつれ、標高の高さが感じられる。
ところで、男子と女子が席を分ける、というのは、当然、痴漢防止の為である。とくに外国人の女は、外国人ゆえに「ちょっとくらいのお触りは許されるだろう」と思われている節がある。今回も運転手の真後ろの席に座ったのだが、この運転手、シフトチェンジをする左手が空いている時に、その手をダラーンと垂らしてさり気なく、後ろにいる私の脛を触ってくる。だんだん、私との接着時間が長くなるのと、掌がこっちに向き変わるので分かったので、触れない位置にキュキュッと移動。
触るってアンタ、脛だよ。そんなもん触って楽しいか?!たとえ脛でも触りたいってか?!脛でいいのか?!え?!ええ?!
これが得てして遭遇する一般インド人の抑圧された性欲とピュアさ加減である。気持ち悪いんだか可愛いんだか情けないんだか、本当にわけがわからなくなる。
そうこうしているうちに、車内に入る風も、頭になにか巻かなきゃいけないくらいに冷たくなってきた。遠くに見える山々、見渡す限りの茶畑。ああ、もうすぐムナール。サジュが行ったことの無い、素敵なムナール。
景色の険しさは全然ちがうけれど、初めてインドに来た時のヒマラヤへの道のりを思い出す。とても懐かしい匂いがした。
Perumbavoorから乗り換えながらおよそ100キロ。73ルピーでMunnarに着いてしまった。かかった時間はだいたい5時間。日本だと遠く感じる5時間もインドに居ると、近く思える。
日のあるうちに安い宿を探さなければ。
ガイドブックどころか、何の情報もないので、とりあえず勘にまかせて川沿いに元来た道をたどる。途中私を拾ったオートワーラーの紹介してくれた「ザ・無愛想ホテル」に聞くとエラく狭い部屋が一泊400ルピーという。高いと思ったけど、日も暮れてきたし、最上階だし、明日探せばいいか、ということで決定。オールドムナールと呼ばれるエリアの外れ。
電気湯沸かし器で、申し訳程度のお湯がでるけど、寒い。ヒーヒー言いながら埃だらけの体を洗う。それでも自分のベッドと暖かい毛布があるというのはいい事だ。近所の食堂で焼きそばとチャイ。
洗濯禁止とあるが、明日着るものが無いし、まともに聞いてられるか。さっと洗濯をして得意の紐テクノロジーで干場を作り、衣類を吊るして床に着く。ベッドのお供は糸井重里の「イトイの通販生活」だ。
年に一度は、これまで行ったことの無い場所を訪れなさい。
・・・とダライラマ14世が言った。
狭い。寒い。けれど幸せ。
His Holiness!
私は、来ました!
part 2 へつづく
私にしては大奮発なゴージャスな空港ホテル。
ネットで見つけたこのホテルを選んだのは、偶然、マー君とママの京子さんがフライト前の短時間ステイをするって事と、ムナールに行っている間に荷物を安全に預かってくれそうだったから。
私にとってはそれくらい高価なホテルってことだ。でも、かつて住んだどのアパートよりも広いスイートだし、キッチンも冷蔵庫もあるし快適。バスタブもあって、栓がなかったけど、化粧品の瓶を排水溝に突き刺したら、かろうじてお湯にも浸かることが出来た。おかげで、あの悪夢の荷造り強行軍の疲れも緩んできた。
ともかく、30Lのバックパックに必要なものだけを詰めて、ここからムナールへと出発だ。久しぶりのインド一人旅。
ホテルの車でオートスタンドに運んで貰う。Aluvaからバスに乗ろうと思っていたが、オートワーラーのおじさんがPerumvavoorの方が近いというのでそっちへ。ちなみにオートというのはオートリキシャーのこと。人力車はほぼ絶滅していて、リキシャーワーラーといったら、それはサイクルリキシャー夫のこと。サイクルリキシャーの免許の新規発行はもう無いので、いずれ絶滅するでしょう。現在、限られた地域のみで営業が許可されている。
半年のデューティーから解放された脱力感と、オートでインドの湿った風を切るこの感じ。ああ、久しぶりだよ。幸せ。
途中、見覚えのある町を通り過ぎる。シャンカラアーチャーリヤの生誕地であるKaladiを通過。2年前にアンボリから引っ越してくる途中に寄ったよね。スワミジ達、ボーイズ、それからゴパールジとのタフながら楽しい道中が思い出され微笑ましい。プラヴィーンが木から逆さに落ちて首を痛めた後だよね、くっくっ。
20分の後、250ルピーでPerumvavoorのバスターミナルに到着するも、外国人は当然ながら一人も居ない。バスの行き先表示、英語どころかヒンディーも無く、まったく読めない!
通りまで出て行って交通標識を撮影。ムナールというマラヤラム語を暗記して目的のバス探し。結局なにやら分からぬままに、近くにいたオジさんの薦めてくれた一台に飛び乗った。
さて、空いている席に座ってみたが、どうも居住まいが悪い。これはつまり、男子と女子の座る位置が分れているということだと思う。それで間違いない筈。加えて、インドでは女は一人で旅などしない。奇異な目を向けられるのもまたしんどい。
私は、(スワミジの教育の賜物か)こういった空気を読むのだけは得意で、独自のルールのあるインドでは外さない。場違いな服装や行為をしないから地元人に好かれるのだが、空気を読んだところで、旅は始まってしまっているし、車内は混んでいて動けない。万事休すと思ったら、後々車掌さんが来て、前方の女子ゾーンの空席に誘導してくれた。
しかし、このバスで合っているのか、どこに行くのか、何もかもが全くもって不明だ。そのうえ過酷な仕事からの開放感のためか、頭の中、放心状態。「どこに着いたって怖くない」へんな安心感もあって、ただそこに居ることだけを味わっている。
バナナの葉っぱを通り過ぎてきた、森の、湿気を含んだ風。
目を閉じる。
そう、これがケーララだった。
結局、Kottumangalamで長らくの時間調整をしたあと、Adimali(多分)でバスを乗り換えた。開け放した窓から入る風の温度が下がるにつれ、標高の高さが感じられる。
ところで、男子と女子が席を分ける、というのは、当然、痴漢防止の為である。とくに外国人の女は、外国人ゆえに「ちょっとくらいのお触りは許されるだろう」と思われている節がある。今回も運転手の真後ろの席に座ったのだが、この運転手、シフトチェンジをする左手が空いている時に、その手をダラーンと垂らしてさり気なく、後ろにいる私の脛を触ってくる。だんだん、私との接着時間が長くなるのと、掌がこっちに向き変わるので分かったので、触れない位置にキュキュッと移動。
触るってアンタ、脛だよ。そんなもん触って楽しいか?!たとえ脛でも触りたいってか?!脛でいいのか?!え?!ええ?!
これが得てして遭遇する一般インド人の抑圧された性欲とピュアさ加減である。気持ち悪いんだか可愛いんだか情けないんだか、本当にわけがわからなくなる。
そうこうしているうちに、車内に入る風も、頭になにか巻かなきゃいけないくらいに冷たくなってきた。遠くに見える山々、見渡す限りの茶畑。ああ、もうすぐムナール。サジュが行ったことの無い、素敵なムナール。
Perumbavoorから乗り換えながらおよそ100キロ。73ルピーでMunnarに着いてしまった。かかった時間はだいたい5時間。日本だと遠く感じる5時間もインドに居ると、近く思える。
日のあるうちに安い宿を探さなければ。
ガイドブックどころか、何の情報もないので、とりあえず勘にまかせて川沿いに元来た道をたどる。途中私を拾ったオートワーラーの紹介してくれた「ザ・無愛想ホテル」に聞くとエラく狭い部屋が一泊400ルピーという。高いと思ったけど、日も暮れてきたし、最上階だし、明日探せばいいか、ということで決定。オールドムナールと呼ばれるエリアの外れ。
電気湯沸かし器で、申し訳程度のお湯がでるけど、寒い。ヒーヒー言いながら埃だらけの体を洗う。それでも自分のベッドと暖かい毛布があるというのはいい事だ。近所の食堂で焼きそばとチャイ。
洗濯禁止とあるが、明日着るものが無いし、まともに聞いてられるか。さっと洗濯をして得意の紐テクノロジーで干場を作り、衣類を吊るして床に着く。ベッドのお供は糸井重里の「イトイの通販生活」だ。
年に一度は、これまで行ったことの無い場所を訪れなさい。
・・・とダライラマ14世が言った。
狭い。寒い。けれど幸せ。
His Holiness!
私は、来ました!
part 2 へつづく